三月二十五日 〜 常国寺 梶井基次郎の檸檬を訪ねて 〜
どうぞどうぞ自由に入っていいですよ!
私たち高尚な人間じゃないので、文学のことはサッパリわかりませんけども。
奉納と言われても本を置いておくだけですよ。
と、明るい返事。
かなり風通しの良い寺のようだ。
命日にあたる前日の二十四日には、檸檬忌が行われたらしい。
お墓には大きなレモンが供えられていた。
無料で頂いた数本のお線香を灯し、手を合わせる。
お寺の奥さんは、本書を受け取ってくれたものの『奉納』という言葉に戸惑っていた。
明らかに、文学者と、文学者を訪ねる者たちの不可思議な熱に重荷と畏れを感じているようでもあった。
単に場所をお貸ししているだけなので。。。
と、どんより曇り始めた女性の表情は、それ以上は踏み込めない自我の境界を浮かばせていた。
通常、神道であれば、概ね死者が神として祀られ、その地に一体化(鎮座)しているので、
心の通った作り物を奉納することは、喜ばしいことである。
お返しの品を頂くこともある。
ここは庶民的なお寺さんなのだ。
そんなお寺に、梶井基次郎は眠っている。
返り際、毎年檸檬忌が行われているのでまた来年どうですか。とのお声がけを頂いた。
確かに『檸檬』は一年でめくり終えることはなく、私は再びここに来るのかもしれない。
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