三月二十五日 西成地区
本書の中では紹介することができなかったが、もしかしたら西成あいりん地区は、
二宮金次郎が一番に再生させた村「桜町」にあたるのかもしれない。
ネットで調べると、一泊1000円〜1500円ほどの宿やホテルが軒を連ねていた。
部屋の写真も感じが良かったので、他に選択肢は思いつかなかった。
日が暮れて新今宮駅を降りると、高架線伝いの暗がりに人々のかたまりがあった。
全く想像の範囲内ではあった。
すでに時間が遅く「ホテル」と名の付いたところは、どこも満室だった。
こんな部屋ですけど、いいですか?
人気の少ない廊下を歩き、通された部屋は想像を越えていた。
部屋の中には灰皿があり、壁はヤニで黄色くべたついていた。
布団も汗とヤニが染みていた。
日頃の疲れが溜まっていたので、すぐ眠ることができた。
文字通り、ここは雨風を凌ぐための宿なのかもしれない。
もしここにある古めかしい暖房器具つけたら、どんなに怪しい風がでてくるかわからない。
寝ながらにして微かな汗が粘着し、空気の成分が伝わってくる。
朝は寒かった。
臭みの軽い布団の上に、臭みの酷い布団を重ねてみたものの、
さほど温かくならなかった。
体が冷えきっている。
電車が走り出している時間だ。
この宿には、チェックアウトというシャレたものはない。
朝6時だというのに、西成の銭湯は営業していた。
学生も混じって、大勢の客の活気で溢れていた。
地区の中を歩くと、みな思い思いにシートを広げて、西成限定フリーマーケットのようなことをしている場所もあった。
自分の集めたコレクションを誇らしげに自慢しているようにも思えた。
かなり時間に余裕があるが駅に向かった。
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